Amantes amentes.

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語彙と文法

「アマンテース・アーメンテース」と読みます。
amantēsは「愛する」を意味する第1変化動詞 amō,-āre の現在分詞・男性・複数・主格の名詞化したもの(=「愛する者は」)です。
厳密にいえば amantēsは女性・複数・主格の可能性もありますが、「愛する者は」と一般化する場合、普通は男性名詞とみなします。
āmentēsは「正気でない」を意味する第3変化形容詞āmens,-entis の男性・複数・主格で、この文の補語になっています。
動詞としては不規則動詞 sum(である)の直説法・現在、3人称複数のsunt が省略されています。
「愛する者は正気でない」、「愛する者に正気なし」と訳せます。
ローマの喜劇作家、テレンティウスの言葉です(cf. Andria 218)。

余談

表題はローマの喜劇作家テレンティウスの作品に出てくる言葉です。いわんとすることは「恋は盲目」と同じです。「愛する者」は「恋する者」と訳しても構いません。たった二語からなる表現で、それぞれアルファベット一文字しか違わない。これで格言として成立するのですからラテン語は面白いです。

「正気なし」とは理性が働かない、後先を考えないという意味です。それを悪い意味でとるのか、よい意味でとるのか。どちらも可能です。ローマ人の考えでは、愛は人間から理性を奪い、破滅に導びきます。これは「正気なし」をネガティブに受け止めるときの一般的解釈です。

一方、これをよい意味で受け止めると、愛する者は理性では想像もできない力を発揮し、いかなる困難にもひるまず挑戦する、という意味で理解できます。そのものズバリの格言としては、「愛する者に困難なし」(Nihil difficile amantī.)(キケロー)があげられます。

神学者アルクィンも、このような愛(アモル)を高らかに歌い上げています。

愛は炎で我々の胸を貫く。
新たな熱で絶えず燃え上がるのも愛。
海も大地も山も森もアルプスも
愛を阻み、その道を妨げることはできない。

燃え上がる愛にとってその行く手を阻むものは何もない。あらゆる障壁を乗り越える愛の力。表題のメッセージをポジティブに称えた一例と言えるでしょう。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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