愛を遠ざける話:ルクレーティウス

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ヘーローとレアンドロスの悲劇について、ウェルギリウスは『農耕詩』第3巻258-263で次のように言及しています。

「恐ろしい愛に身を焦がす、かの若者を想え。彼は真暗な夜更けに、嵐が吹き荒れ波立ち騒ぐ海峡を泳ぎ渡る。彼の頭上には天の巨大な門が雷鳴を発し、断崖に突き当たる波は引き返せと叫ぶが、哀れな両親も、まもなく嘆きのあまり死ぬことになる乙女も、彼を呼びとめることはできない。」(河津千代訳)

このエピソードは「人間にも動物にも愛は変わりなく襲いかかる」という考え (amor omnibus idem) を裏付ける具体例として語られています。

一方、詩人は先行する箇所で、「愛を遠ざける必要性」を強調しています。いわく、「家畜を愛や盲目の愛の刺激から遠ざけることほど、その体力を強める上で効果的な世話はない。」と。

この言い回しは、エピクロス派の詩人ルクレーティウスの表現(4.1052以下)をふまえています。

ウェルギリウスの場合、たしかに家畜の世話と関連づけて「愛は遠ざけよ」と述べていますが、初めに触れたヘーローとレアンドロスの例でもおわかりいただけるように、そうすることがむしろ不可能な現実を強調しているように思われます。この点がルクレーティウスとの相違点です。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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