博士と生徒

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博士と生徒

英語で student と言えば「生徒」を意味し、doctor と言えば「博士、医者」を意味する。それぞれの語源は何であろうか。 student の語源は、「熱中する、努力する」という意味を持つラテン語の studeo(ストゥデオー)である。

この動詞の現在分詞の形、すなわち、studens(ストゥデンス)からできた語が 英語の student となる。 したがって、本来の意味に即して student を訳せば、「熱意を持つ者、努力する者」といった感じになる。 このように、ラテン語の現在分詞は、「・・する者」と訳すことが可能である。

例えば、sapiens(サピエンス)というラテン語は、「賢明である」という意味の動詞 sapio(サピオー)の現在分詞の形であり、「賢明な者」と訳すことができる。(なお、sapio は、本来「食事を味わう」と意味を持つ。)

一方、「博士」を意味する doctor という英語は、ラテン語で「教える」という意味を持つ doceo(ドケオー)と関連している。 ラテン語で -tor の形は行為者の名詞を表すので、doctor とは「教える人」という意味をもつ。 ちなみに、Ph.D. とは doctor philosophiae (ドクトル・ピロソピアエ)の略語で、「哲学を教える資格をもつ人」の称号である。

なお student に関連した英語 study は、日本語では「勉強」と訳すが、そのルーツは「熱意」や「情熱」を意味するラテン語の studium(ストゥディウム)である。 すなわち、日本語のように「勉めて強いる」という意味でなく、むしろ個人の「自発的な意思」を示唆する言葉である。 わたしは、英語の本来の意味において、I am a student. と言い続けたい、と思う。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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