ラテン語の命令法

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命令法・能動態

ラテン語の命令法は格言の宝庫です。時制は現在と未来があります。「現在」はその命令が今すぐ実行されると期待される場合に用いられます(第1命令法とも呼ばれます)。「未来」は将来実行されると期待される場合に用いられ、主に法律や布告の文に見られます(第2命令法とも呼ばれます)。

命令法・能動態・現在

2人称と3人称、それぞれ単数と複数があります。一番頻度の高いのは命令法・能動態・現在、2人称単数です。目の前の相手一人に「~せよ」と命令する表現です。これが2人称複数になると、目の前の複数の相手に「~せよ」と命令する表現になります。

Carpe diem. カルペ・ディエム(その日を摘め)

carpeは第3変化動詞carpō,-ere(摘む)の命令法・能動態・現在、2人称単数です。

Vīve. 生きよ。

vīveは第3変化動詞vīvō,-ere(生きる)の命令法・能動態・現在、2人称単数です。

Stultitiam incrēdibilem vidēte. Cic.Phil.2.8 (諸君は)信じられない愚かさを見たまえ。(vidēte: videō,-ēre<見る>の命令法・能動態・現在、2人称複数)

<語彙と文法>
stultitiam: stultitia,-ae f.(愚かさ)の単数・対格。
incrēdibilem: 第3変化形容詞incrēdibilis,-e(信じられない)の女性・単数・対格。stultitiamにかかる。
vidēte: videō,-ēre(見る)の命令法・能動態・現在、2人称複数。陪審員たちに向けての命令。

キケロー「ピリッピカ」のセリフです。政敵アントーニウスの愚かさを非難しています。

命令法の作り方

命令法・能動態・現在、2人称単数

命令法・能動態・現在、2人称単数の作り方は簡単です。基本的に、動詞の不定法の語尾から-re を取ればこの形が得られます(現在幹と一致)。amō の不定法(能動態)は amāre なので、この語尾から-re を取ると、amāになります。

Sī vīs amārī, amā. 愛されたければ愛しなさい。
(amā: amō,-āre<愛する>の命令法・能動態・現在、2人称単数)

同様に、第2変化動詞rīdeō の命令法はrīdē(笑え)、第3変化動詞discō の命令法はdisce(学べ)、第4変化動詞audiō の命令法はaudī(聞いて)になります。

Rīdē, sī sapis. あなたが賢明なら、笑いなさい。
Disce morī, disce vīvere. 死ぬことを学べ、生きることを学べ。
Audī et alteram partem. 別の側の意見も聞きなさい。

動詞の不定法は、活用パターンに応じて-āre、-ēre、-ere、-īreという4つの異なる語尾を持ちますが、そこから-reを取った命令法の語尾も(当然ながら)次のように4種類に分かれます。

第1変化動詞の命令法の語尾 -ā
第2変化動詞の命令法の語尾 -ē
第3変化動詞の命令法の語尾 -e
第4変化動詞の命令法の語尾 -ī

注意事項:現在幹から母音が落ちる例

動詞の中には現在幹(不定法の語尾から-reを取った形)の母音が落ちるものがあります。

代表例:

dīcō,-ere(言う)→dīc
dūcō,-ere(導く)→dūc
faciō,-ere(作る)→fac
ferō,ferre(運ぶ)→fer

dīcōを例に取ると、不定法dīcere の語尾から-reをとったdīce(現在幹)の語尾からeが落ちてdīcになるということです。

Dīc mihi, crās istud, Postume, quando venit? Mart.5.58.2  
おまえの「明日」は、ポストゥムスよ、いつ訪れるのか、言ってくれ。

不規則動詞 sum(である)の命令法・現在

2人称単数は es、2人諸複数は esteです。

不規則動詞ferō(運ぶ)の命令法・能動態・現在

2人称単数は fer、2人称複数は ferteです。

合成動詞の例

Perfer, obdūrā. Cat.8.11 耐えよ、持ちこたえよ。

perferōはper + ferōの合成動詞です。

不規則動詞dō(与える)の命令法・能動態・現在

2人称単数はdā、2人称複数はdateです。

mī bāsia mille, deinde centum, 私に千の口づけを与えよ、続いて百 (カトゥルス)
Date et dabitur vōbīs. 与えよ、さらば与えられん。

命令法・能動態・現在、2人称複数

複数では、現在幹(不定法・能動態・現在の語尾から-reを取った形)に -teをつけます。amō,-āre(愛する)を例にとると、amāteとなります。ただし、第3変化動詞の場合、現在幹の幹末のeをiに変えてから -teをつけます。agō,-ere(行う)を例にとると、agiteになります。

Plaudite, acta est fābula. (汝らは)拍手せよ。お芝居は終わりだ。
Dum fāta sinunt, vīvite laetī. 運命が許す間、(汝らは)喜々として生きよ。
Expertō crēdite. (汝らは)経験者を信じよ。

第3変化動詞plaudō,-ere(拍手する)の命令法・能動態・現在、2人称複数はplauditeです。現在幹plaudeの幹末のe をiに変えてから-teをつけます。

同じく第3変化動詞vīvō,-ere(生きる)の命令法・能動態・現在、2人称複数はvīviteで、crēdō,-ere(信じる)の同形はcrēditeです。

命令法・能動態・未来、2人称単数、3人称単数

命令法の未来は教科書によっては「第2命令法」とも呼ばれます。

中山恒夫先生の「古典ラテン語文典」(p.64)によると、「第2命令法(命令法未来)は、法令、条約、遺言書、人生訓など、形式ばった表現に用いられる。」と説明されています。

命令法の現在が今すぐただちにその行為の実行が求められるのに対し、命令法の未来は「法令」の例のように普遍性を有し、将来にわたってその行為が行われるべきものに関して用いられる表現だと考えられます。

未来の単数(2人称単数と3人称単数)は同形です。現在幹に-tōをつけます。amōを例にとると、amātōとなります。ただし、第3変化動詞の場合、幹末のeをiに変えます。agōを例にとると、agitōになります。

Tū nē cēde malīs, sed contrā audentior ītō. (Verg.Aen.6.95)
おまえは困難に屈することなく、逆にいっそう勇敢に行け(立ち向かえ)。

sciō,-īre(知る)、meminī,-isse(覚えている)など、命令法・能動態・未来(第2命令法)しかない動詞もあります。それぞれ2人称単数、2人称複数の順に、scītō, scītōte、mementō, mementōteになります。

Scītō tē ipsum. 自分自身を知るがよい。(汝自らを知れ)
Mementō morī. 死を忘れるな。(メメントー・モリー)

命令法・能動態・未来、2人称複数、3人称複数

未来の複数形は、2人称の場合、現在幹に-tōteを加えます(ただし、第3変化動詞の場合、幹末のeをiに変える)。amōはamātōteになり、agōはagitōteです。

3人称複数の場合、第1・第2変化動詞については現在幹に-ntōを加えます。amōはamantō、moneōはmonentō とします(巻末の母音は短母音化します)。第3・第4変化動詞については現在幹に -untōを付け加えます。ただし第3変化動詞の場合、巻末のeを落とします。第4変化動詞の場合、巻末の母音は短母音化します。agōはaguntō、audiōはaudiuntōとします。

Nōn satis est pulchra esse poemāta; dulcia suntō. 
詩は美しいだけでは十分でない。魅力的であらしめよ。ホラーティウス『詩の技術』(99)

命令法・能動態の種類

2人称単数2人称複数3人称単数3人称複数
amō現在amāamāte
未来amātōamātōteamātōamantō
videō現在vidēvidēte
未来vidētōvidētōtevidētōvidentō
agō現在ageagite
未来agitōagitōteagitōaguntō
capiō現在capecapite
未来capitōcapitōtecapitōcapiuntō
audiō現在audīaudīte
未来audītōaudītōteaudītōaudiuntō

命令法・能動態の例文

リンク先に文法の詳しい説明があります。

禁止の命令文

「~するな」という禁止を表す場合、nōlī+不定法(2人称単数)、またはnōlīte+不定法(2人称複数)の構文を用います。

Nōlī mē tangere. (あなたは)私に触れるな。
Nōlī turbāre circulōs meōs! 私の円を乱すな。
Nōlīte jūdicāre. (あなたたちは)裁くな。

法律文には、nē+命令法・能動態・未来で禁止を表す表現が見られます。

Impius nē audētō plācāre dōnīs īram deōrum. Cic.Leg.2.22 不敬な者が、大胆にも神々の怒りを捧げ物で宥めようとしてはならない。

nē+命令法・現在は詩の中などに出てきます。文法書によっては本来の用法ではないと書かれていますが、実際よくお目にかかる表現です。

Nē frontī crēde. 見かけを信じるな。

禁止を表す別表現として、nē+接続法・完了(または接続法・現在)もあります。nēに接続法・完了をつけるのが基本で、接続法・現在をつけるのは日常語とみなされています。

Nē gaudeās vānīs. 無益なものを喜ぶな。(セネカ、倫理書簡集 23.2)
Immortālia nē spērēs. 不死なるものを望むな。(ホラーティウス、詩集 4.7)
Ante victōriam nē canās triumphum. 勝利の前に凱歌を歌うな。

命令法・受動態

命令法の受動態を紹介します。amōを例に取ると次のような形になります。

現在・2人称単数 amāre
現在・2人称複数 amāminī
未来・2人称単数 amātor
未来・2人称複数 ―
未来・3人称単数 amātor
未来・3人称複数 amantor

命令法・受動態・現在の2人称単数は、不定法(能動態・現在)と同じ形です。2人称複数は、受動態の現在、2人称複数の形と同じです。Amāre. は不定法として用いられる場合は「愛すること」ですが、文として出てきたら、「(あなたは)愛されよ」と訳すことになります。一方、Amāminī. は「あなた方は愛される」(直説法・受動態・現在、2人称複数)とするか、「(あなた方は)愛されよ」(命令法・受動態・現在、2人称複数)とするのかは、文脈によって判断することになります。

命令法・受動態・未来は、現在幹(不定法の語尾から-reを取った形)に-torや-ntorを加えて作ります。ただし、第3変化の場合は、現在幹の末尾の母音eをiやuに変えます。例えば、第3変化agōの未来・2人称(3人称)の単数はagitor、3人称複数はaguntorです(能動態・現在、3人称複数の語尾に-orをつけた形と覚えたら早いです)。なお、命令法・受動態・未来は、2人称複数の形を欠いています。

今述べたことは不規則動詞にも当てはまります。dōの命令法・受動態・現在、2人称単数はdare、2人称複数はdaminī、未来の2人称および3人称単数はdator、3人称複数はdantorです。ferōは同じ順にferre、feriminī、fertor、feruntorとなります。

形式受動態動詞の命令法

命令法・受動態を学ぶことで、形式受動態動詞の命令法がわかります。形式受動態動詞の命令法は一般動詞の受動態の命令法と同じです。

形式受動態動詞の命令法の例文

Vērē ac līberē loquere. ありのまま自由に語れ。
Sequere nātūram. 自然に従え。
Turne, in tē suprēma salūs, miserēre tuōrum. Verg.Aen.12.653
トゥルヌスよ、おまえに最後の希望がかかっている。仲間を憐れむがよい。

Et ille: “tū vērō ēnītere et sīc habētō, nōn esse tē mortālem sed corpus hoc;
すると彼は言った、『おまえはたしかに努力するように。そして、おまえでなくこの身体が死すべきものと心得よ。(キケロー「スキーピオーの夢」より)

<語彙と文法>

  • Et: すると、それから
  • ille: 指示代名詞ille,illa,illud(あれ)の男性・単数・主格。3人称単数の人称代名詞の代用で「彼は」と訳す。大アーフリカーヌスをさす。
  • tū: 2人称単数の人称代名詞、主格。「おまえは」。
  • vērō: たしかに
  • ēnītere: 形式受動態動詞 ēnītor,-ī(努める)の命令法・現在、2人称単数
  • et: 「そして」。2つの命令法ēnītereとhabētōをつなぐ。
  • sīc: このように
  • habētō: habeō,-ēre(みなす、心得る)の命令法・能動態・未来、2人称単数
  • nōn: 「~でない」。nōn A sed Bの形で「AでなくむしろB」。Aにあたるのがtē、Bにあたるのがcorpus hoc。
  • esse: 不規則動詞sum(である)の不定法・現在。
  • tē: 2人称単数の人称代名詞tūの対格。不定法(esse)の意味上の主語。
  • mortālem: 第3変化形容詞mortālis,-e(死すべき)の男性・単数・対格。esseを含む対格不定法の補語。「おまえは(tē)死すべき(mortālem)ではないこと(nōn esse)」。
  • sed: むしろ
  • corpus: corpus,-poris n.(身体、肉体)の単数・対格。
  • hoc: 指示形容詞hic,haec,hoc(この)の中性・単数・対格。corpusにかかる。

<逐語訳>
すると(Et)彼は(ille)(言った)、『おまえは(tū)たしかに(vērō)努力するように(ēnītere)。そして(et)次のように(sīc)心得よ(habētō)、おまえ(tē)でなく(nōn)むしろ(sed)この(hoc)身体が(corpus)死すべきもの(mortālem)であることを(esse)。

参考図書:おすすめの教科書

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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